織機から下ろされたデニムは、もう一枚の布の形をしています。縦の糸と横の糸が組み合わさり、青い面が端から端までつながっている。見た目には、ここで出来上がったように見えます。
けれど目を近づけると、面には細かい毛が立っています。布の中には、織られるあいだに引っ張られた力も残っている。機から下ろしたままのこの布は、生機(きばた)と呼ばれます。織ってから、まだ何の加工も受けていない布、という呼び名です。
ここから先が、仕上げの工程です。相手にするのは、目に見える毛と、目に見えない力の両方です。
表を焼き、張りを整える
まず、表面から。立っている毛を、炎にくぐらせたり、熱した板に当てたりして焼き取ります。毛焼きと呼ばれる工程で、面は平らになり、わずかに艶が出ます。毛に隠れていた織り目も、はっきり見えてきます。
張りを整えるために、糊を含ませることもあります。糊は、糸の段階でも付けられていました。あちらは、織るあいだに糸が切れないようにするためのもの。こちらは、指で曲げたときの張りや手ざわりを整えるためのものです。同じ糊でも、受け持つ役目が違います。

逆の向きへ、ずらしておく
デニムは綾織りの布で、表には斜めの筋が走っています。この織り方の布には、筋の向きに沿った力がこもっている。洗われてその力がゆるむと、縦と横の糸の角度が少しずつ変わり、布がねじれたように見えることがあります。筋が右へ上がる布は右へ、左へ上がる布は左へ。
そこで仕上げの途中、湿らせた布を傾けたローラーに通して、横の糸をあらかじめ斜めにずらしておきます。ずらす向きは、布がひとりでにねじれていく向きとは逆です。こもっていた力をこの段階で逃がしておけば、あとでゆるんだときにも、糸どうしの角度は変わりにくくなる。斜行防止と呼ばれる加工です。

先に、縮ませておく
綿の布が水を含んで縮む理由のひとつは、作られるあいだに引き伸ばされていることにあります。伸ばされたままの布は、水に入ると、元の長さへ戻ろうとする。
防縮は、その戻りの一部を、先に起こしておく加工です。湿らせた布を、ゴムの帯と熱い円筒のあいだへ送り込み、縦の方向へ押し縮める。湿らせておくのは、糸が動きやすい状態にしておくためです。横の糸どうしの間が詰まったところで乾かし、その形を落ち着かせます。めざすのは、あとから出る縮みを小さくしておくことです。
この方法は、1930年代のはじめにアメリカで特許になりました。ジーンズの織りネームやタグに、sanforized と書かれていることがあります。これは商標で、決められたやり方で縮みを測り、基準に合った布にだけ使うことが許されています。
反対に、この工程を通さずに出ていくデニムもあります。
測って、確かめる
手を加えたことと、布が狙った姿になったことは、同じではありません。どれだけ押し縮めるかは、布ごとに合わせて決めます。押し縮めた布が、水を通したあとにどれだけ寸法を変えるのか。それは、実際に水に通して測るまで分かりません。
布の測り方は、日本産業規格(JIS)にも項目ごとに定められています。引っ張ったときの強さ。裂いたときの強さ。曲げたときの硬さ。布の目の曲がり。水に浸したり洗ったりしたあとの、寸法の変わり方。
どの項目を、どの基準で見るかは、布の使い道によって変わります。先に縮ませた布なら、洗ったあとの寸法を測れば、加工が効いたかどうかが数字で分かる。sanforized の名前が、縮みを測って基準に合った布にだけ許されているのも、同じ考え方です。
布が出ていくまで
瀬戸内の土地の成り立ちから始めて、綿が糸になり、藍をくぐって青くなるところ、横の糸が一本ずつ通されて布が織り上がるところをたどってきました。仕上げは、その先にあります。
焼く、糊を含ませる、斜めにずらす、押し縮める、測る。どれをどこまで行うかは、布ごとに違います。

デニムの青や織り目には、糸と藍と織機の話が入っています。面の平らさや、曲げたときの張りには、そのあとの話が入っています。
キーケース ― 鍵をまとめて持つ形。
コンパクト財布 ― お札を折らずに持つ形。
カードケース ― ファスナーで閉じて、カードを持つ形。
使うほど、味になる。